「あっ、ここの料理は美味いわ〜」店に入った瞬間、そう直感した。 子供の頃、外で暗くなるまで泥まみれになって遊び、腹をすかして自宅の玄関を開けた時、 なんともいえぬいい匂いが鼻をくすぐる。 それだけでホッとした気持ちになり、一日の疲れも忘れてしまう。 そんな記憶が誰にでもあるだろう。 ここ、本牧食堂はまさにそんな店である。 古めかしい構えの入り口を入れば、次の瞬間には誰にとっても懐かしい昭和前期にタイム スリップする。 テーブル、イス、窓、カーテン、働くオバサンやオジサン等々、何もかもが懐かしい。 こんな店の料理が美味くない筈がない! メニューの表紙に書いてある次の言葉がまた気分を盛り上げる。 サア、イカウ。 ケフモタノシク、ヨコハマホンモク。 老若男女ノイコヒニピツタリ。 ゴ覧ノタウリ、気軽ナオ店デスヨ。 メニューを開くと、そこにも郷愁を誘う絵や料理が並んでいる。 一度に全てを食べれないと分かっていながら、ついついあれもこれもと注文してしまった。  - 野菜サラダ:¥650  - クラムチャウダー:¥500  - ドミかつどん (漬物・みそ汁付):¥980  - チキンの和風マヨネーズ焼き(ライス別):¥830 野菜サラダには、レタス、サニーレタス、大根、人参、トマト、貝割れ大根、餃子の皮を 細く切って油でカリカリに揚げたものが入っている。 まぁごく普通のサラダなのだが、そのドレッシングが気に入った。 サラダ油をベースとして、醤油、玉葱の擦り下ろし、レモン汁を加えた、昔ながらの懐か しい味を出している。 クラムチャウダーには、浅蜊、しゃが芋、人参、玉葱、トマト、パセリ、パプリカが入っ ている。 パセリとパプリカは見た目を美味しく見せるために振りかけられたもので、市販の調味料 売り場でビンに入って売っているものと思われる。 このスープは、きわめてまろやかなトロ味が絶妙で素晴らしい! このようなトロ味のある スープには、そうそうお目にかかれるものではない。 私が今までに食したスープの中でも 最高の部類だと断言できる。 このトロ味の元は牛乳であろうが、牛乳単独で塩味にしているのではなく、まずホワイト ソースを作り、それを仕上げに加えているからだと思われる。 ※仕上げに入れるのは、ホワイトソースは煮込みすぎると焦げ付きやすく、  白い色が失われて茶色になるためで、けっして煮込んだりしないのである。  ホワイトソースを入れすぎトロ味が強すぎると、クラムチャウダーを通り越して、  浅蜊入りのホワイトシチューになってしまう。 ほど良いトロ味がシェフの腕なのであろう。 チキンの和風マヨネーズ焼きは、ソテーしたチキンに白髪ネギと青ネギが乗っている。 付け合わせは、潰さずスライス状にしたマッシュポテトにパプリカとパセリが振りかけて あるもの、人参のグラッセ、ほうれん草のソテー。 ソースはオーソドックスな醤油とウスターソースだと思うが、チキンに塗ってあるマヨネー ズが絶品である。 たぶん牛乳または生クリーム(泡立てていないもの)でまろやかにしたマヨネーズに、洋練り ガラシが少々混ぜてあるのではないかと思われる。 これまたシェフの研究の成果であろう。 素晴らしい! ドミかつどんは、白いご飯にキャベツを敷き、その上に薄焼きのロースかつを乗せ、ドミグ ラスソースをかけ、青ネギを散らしたもの。 ドミグラスソースであるから、トンカツソースやステーキソースほどの濃厚さやウスターソ ースほどの濃い味はないが、さっぱりして懐かしい味である。 濃い味が好きならば、食卓の上に置いてあるソースをかければいい。 お味噌汁の具は定番のワカメと豆腐、青ネギ。 沢庵ときゅうりの漬物が添えてあるのが 嬉しい。 一通り食べてみて、店に入った時の直感は正しかったと確信した。 しかもこれだけ食べて、¥3,318(欲張って二人分注文したからであり、一人分なら実質 ¥1,500程度だろう)。 いつでも誰でも気軽に美味しいものを食べられて、超満足できること間違いなし。 この店には今後も何度か通い、他のメニュー、特に牡蠣フライやサイコロステーキ、ポーク ソテーなどを食べてみたいと思う。 誕生会などで自宅に友人を招いた時など、皆が「美味しい」と言いながら、自分の母親の手作 り料理を食べるのは嬉しく、鼻高々な気分になったものだ。 この店を誰かに奨めたり、あるいは連れて来ることは、遥か昔のそういう気分を彷彿とさせて くれ、古き良き時代を振り返る絶好の機会となるだろう。 今後もこの店がこの味を守り続けて繁栄することを願う。 画像は、チキンの和風マヨネーズ焼き(左)とドミかつどん(右)をアップ。