ありゃ、もう閉店しちゃったかな? 看板の灯りが消えている。 (後で分かったことだが、看板の照明はもう何年も前から切れたままのようだ) いちおう店の前まで行ってみると・・店内の様子は直接には見えないが、灯りは点い ている。  建てつけが悪くなった木製の扉を軽く押してみると・・どうやら鍵はかかっていない ようだ。 そのまま力を入れて、さらに扉を押す。 灯油ストーブが煌々と燃えているのが目に入った。 さらに奥の方へ視線を移すと、 愛想の悪そうな女が仁王立ちになってこちらを見ている。 「まだ開いてますか?」「やってますよ」・・なんだ、やってるじゃないか、愛想の ない奴だな・・ ここは関内、横浜スタジアムのすぐ傍、みなと大通りに面している。 もう随分前に、 ここに古めかしい洋食屋があるのを発見していたのだが、訪れる機会がなかった(忘れ ていた)。 今回ふと思いついて寄ってみたというわけだ。 席に着いて改めて店内を見渡す。 赤いビロードの椅子に白いカバー、使い込まれて 表面がテカテカになった幅の狭い木製のテーブル、壁にかかっている写真やポスター 等々、まるで50年以上は時間が止まっているのではないかとすら思えてくる。 (創業は大正12年だそうだ!) さらによく見ると、奥の椅子には、Kang Luによく似た男が座っている。 その服装からすると、そいつは料理人とも思えるのだが、私を気にするでもなく、 12インチ程度の安っぽいテレビ受像機に見入っている。 やる気あんのか?? そして厨房の入り口と思しき辺りに、白髪のオバサンが立っている。 この人はニコ ニコしている。 あぁ、この人が作ってくれるのか、それなら安心だ。 さきほどの女は、相変わらず仁王立ちでこちらを見ている。 早く決めろってか? メニューは・・テーブルには置いてないし・・あぁ、この壁に貼ってあるやつか。 それほど品数は多くないのだが、どれも懐かしいものばかりで、少し迷ってしまう。 ・・っと、いけねぇ、あの女が睨んでいるぞ(そう思えた)。 ポーク生姜焼(¥1,100)とライス(¥100)、さらに頑張ってハヤシライス (¥850)も注文してみた。 やれやれ・・ 相変わらず、男はテレビ受像機に見入っている。 客でないのは分かったが、こいつ はいったい何なんだ? 奥の方からジュゥジュゥと音がするのを聞きながら、10分ほど待っていると、ポー ク生姜焼、それからハヤシライスが出てきた。 う〜ん、懐かしい匂い。 まさに家庭料理って感じ。 ポーク生姜焼には大きな肉の塊が二切れ入っている。 ナイフで切ろうとすると、テーブルがテカテカになっているものだから、皿が滑って、 なかなかうまくいかない。 水平方向の力よりも垂直方向の力を強めに加えながら、 切る必要がある。 味は・・濃いめだが美味しい! 生姜の味が過ぎることなく、ほど良く付いている。 甘めのソースもいける。 これは日本酒の代わりにみりんを使っているのだろう。 ライスは皿に山盛りになって出てくる。 味が濃いめだから、誰でもこのくらい食べて しまうのだろう。 ハヤシライスは多めのライスの上に、これまた味の濃そうなハヤシがドサッっとかかっ ている。 具は肉と玉ねぎだけ。 味は・・甘さを感じる。 通常はトマトを煮込んだことによる酸味があるのだが・・ 玉ねぎを飴色になるまで煮て、隠し味としてみりんを加えているようだ。 こういう味もいいね。 ここはまさに町の洋食屋。 私がよく行く本牧食堂と較べると、あそこは料理人として経験を積んだオジサンが作る 洗練された味であるあるのに対し、ここはもう本当に素朴などこにでもいそうな母親が 作る味というところか。 本当に、何もかもが懐かしい母親の味! 思わず、おかぁちゃ〜んと叫びたくなる!? 大食漢三人衆でも満足できるほどのボリューム、美味しくて郷愁を誘う味、それでいて 一品¥1,000程度と手頃な価格、いずれもの文句つけようがない。 店に入る瞬間には少し勇気が要るが、一度慣れてしまえば、誰でも通いたくなる店だと 思う。 こういう店が近くにあるといいな。 画像は、ポーク生姜焼(左)とハヤシライス(右)。