ミラノ滞在一日目の夜は、訪問先のSIAE社の人に連れられて街のレストランへやって 来た。 ヨーロッパの多くの地域がそうであるように、ここイタリアでは、通りに面した大き な扉を開けたところに各住居へ続く廊下や階段などの共用スペースあり、そこをさら に進むとやがて中庭に達する。 今回訪れたレストランはその居住スペースに客席が設えてあるだけでなく、中庭にも テラス形式の客席が設けてある。 我々が到着したのが食事には少し早めの時間帯であったようで、店内にはまだ客は おらず、我々が通された中庭の席に数組ほどの客入りであった。 中庭であるから通りの喧騒とは無縁で、落ち着いて食事やお喋りを楽しむことができ る。 昼食が想像をはるかに超えた味だったため、この雰囲気からかなりの味が期待 できそうと胸がふくらむ。 例によってイタリアンワインを飲みながら、また小さいリング状のパンをつまみなが ら、周囲を観察する。 数人で歓談するグループもあれば大人数のパーティーもある。 日本で高級レストランなどに行くと、食器の音をたてることすら憚られるようなある 種の厳粛なムードが漂っていたりするが、ここではそうした雰囲気は一切なく、単に 食事するのでなく人生そのものを皆がエンジョイしているのだと実感する。 イタリア語で書かれたメニューを見て悩むのも楽しいが、今回は当地の人に全てお任 せした。 まずは前菜。 我々がいろいろな味を楽しめるようにと、二種類の品を用意してくれ た。 私は魚介類、特に生臭いもの、をあまり好きではないのだが、これらにはそう した匂いは一切ない。 鱸は生であるにもかかわらず「これが魚?」と思えるほどの見た目と味に仕上がって おり、さっぱりと美味しい。 もう一品はサーモンを軽く炙ったもの。 サーモンを 炙るなんてなんとも贅沢だが、炙ることによって肉のような触感となりサーモンの味 を引き立てているようだ。 これは絶品! 一般にイタリア料理は「素材を活かして軽く火を通す程度」と言われるが、確かにそ れほど手をかけずにこれほどの味が出せるとは見事! 一の善はお決まりのパスタ。 これも二種類、大きなエビが載ったマカロニと小エビ のトマトソース。 マカロニにエビの味が染み込んでいて美味い! 日本でこれと同じ味を楽しもうと思 うなら、私は銀座のサバティーニしか知らない。 もう一方のパスタはトマトソースでさっぱりした味。 絶賛するほどではないが、な かなか真似できない味だと思う。 どの料理も、手の込んだことをせずとも素材の味を引き出すだけでこれほど美味しい のだ、ということを実感させてくれる。 Complimenti allo chef ! ここまででかなり腹に堪えたため残念ながら二の膳はなし・・というより少しセーブ してドルチェ(デザート)を楽しもうと思った。 チョコレート・ケーキ、フルーツ盛り合わせなど皆が思い思いのものを選択する中、 私はフルーツ・タルトにした。 これも期待を裏切ることなくかなり美味しいが、特別絶賛するほどはない。 店を選 べば、日本でも同程度のものを食べられると思う。 コーヒーは当然エスプレッソ。 日常の飲み物であるだけに、どこで飲んでも普通に 美味しい! コーヒー好きには堪らない! 最後の締めはレモンチーノというリキュール。 これは甘くて、また冷やされて口当 たりが良いため、グビグビいけるが、アルコール度数が40度と高いため要注意。 いやはや素晴らしい。 出張中の食事としては、かつてパリのエッフェル塔内のレス トランで食べたフランス料理以来の大満足。 そのフランス料理は一人当たり\10,000を軽く超えたと記憶しているが、今宵の料理は メニューを見たところたぶん一人当たり数千円程度だったろう。 エッフェル塔のレストランでは正装が必須だが、ここではそのようなことは一切なく、 まさに普段着感覚で気軽に楽しめるのが素晴らしい。 このような食事を日常のこととして楽しめる人達は幸せだと思う。